顎関節症
顎の痛みを訴えたり、口の開閉時に音がするといった症状を訴える患者さんが 増えています。顎関節症です。なぜ、顎関節症の患者さんが増えているのでしょう? やわらかい食べ物が多くなり、噛む力を必要としなくなったため、 顎関節もそれ関連する筋肉も機能が低下してきたのではないかと思っています。明治、大正時代の日本人の写真を見ると、下顎のエラが張った、 角ばった顔が多く見られます。 今の小学生、幼稚園児の顔を見てみると、顎の華奢な細面の子供が多いようです。顔がほっそりしていると、一見可愛らしく見えるのですが、実は、スパゲティ、ハンバーグなどやわらかい物を日常的に取ることによる顎の機能の低下の表れです。現代社会のストレスは引き起こす不正な噛み合わせの人を増加させています。顎の機能の低下と、不正な噛み合わせが招く筋肉の異常な緊張が、顎関節症発症の原因であると思っています。顎関節症には、口が開けにくい、関節から音がするなどの症状のほかに、目眩、立ちくらみ、ひどい場合嘔吐などの症状が現れることもあります。そういった症状がある場合、原因の多くが顎関節症による筋肉の異常な緊張によると思われます。偏頭痛、肩こりも筋肉の緊張が引き起こす症状です。顎関節症には、筋肉の緊張が原因と思れる症状が多く見られます。顎関節症の治癒、症状を和らげるためには、筋肉の緊張をできるだけ早く開放し、再び緊張させないようにすることが重要です。
顎関節症と筋肉の緊張(筋肉のこり)
顎関節症の患者様には多くの場合噛み合わせの異常があり、これにより筋肉の緊張が発生します。
顎の関節の内には関節円板という非常に硬い組織があり口が開けにくい人や口を開く時に音がする人は、この関節円板が位置の異常を起こしているときが多く、これにより関節円板に付着している筋肉が緊張しその緊張が周囲の筋肉に伝わるためと思われます。
口が開く時、音がする理由
口を閉じている時の正常な状態では、関節円板は下顎の上にちょうど帽子をかぶる様な感じで存在しています。ところが関節円板は正常な位置から比べるとストレスや筋肉の緊張で前の方へ移動してしまい、口を開く時に関節円板を乗り越える為に、音が発生します。
顎関節の内部です
口を閉じたとき (下顎と関節円板の位置関係は正常です。)
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口を閉じたとき (関節円板が筋肉に引っ張られ下顎の前のほうに移動しています。) |
正常な開口運動 |
音がするときの開口運動 |
口を開く時、下顎は関節円板をのせたまま前方へ移動します。当然この時音はしません。 | 関節円板が前へ移動した状態から口を開く場合も下顎は、回転しながら前方へ移動しますが、そのとき前にある関節円板を乗り越えるとき「カックン」等の音がするわけです。そして、下顎の上に関節円板が乗り正常な位置関係になるわけです。 |
口を開けた時(下顎と関節円板の位置関係は正常です。) |
このように開口時に音がするのは関節円板の前方転移があり、開口時に間接円板が正常な位置になるときに音が出るわけです。
口が急に開かなくなる原因(開口障害)
口の開く量が健康な方に比べると少ないという場合は色々な原因がありますが、急に口が開かなくなる時の原因は、下顎と関節円板の位置関係の異常がほとんどです。下の図は、[1]が正常に口が開ける状態。[2]が正常に口が開かない状態を表しています。下顎と関節円板の位置を注意して見てください。正常に口が開けるときは、下顎の上に関節円板があり、口を開いた時、下顎は大きく前へ動いています。口が開けない時は、関節円板が下顎の前にあり、口を開けようとしてもそれが邪魔をして下顎はほとんど動いていません。口を閉じた状態で下顎と関節円板の位置関係は正常で、下顎の上に間接円板があります。
[1]正常に口が開ける状態 | [2]正常に口が開かない状態 |
口を閉じた状態 |
口を開けづらい時の口を閉じた状態 |
口を開けた状態 口を開けた時の状態で下顎と関節円板の位置関係は正常で下顎の上に関節円板があり、下顎は関節隆起のところまで前方へ移動しています。 |
口を開けづらい時の口を開けた状態 口が開いた状態ですが、関節円板が下顎の前方にあり、それによって下顎の前方への移動が抑制されています。 この状態では、ほとんど口が開けない状態です。 正常な口を開いた状態と比較すると、下顎がほとんど動いていないことがわかります。 |
顎関節症の治療
低周波治療(マイオモニター)
顎関節症の方は筋肉が緊張しているケースが多く、顎関節症の治療の一つとしてこの筋肉の緊張を少なくすることが必要です。
当院ではマイオモニターという低周波治療器を使用し、約20分間通電します。
その結果写真(下の写真)は左右のこめかみの筋肉とほっぺたの筋肉の筋電図(筋肉の緊張:振幅の大きい程、筋肉は緊張しています)を表していますが、20分間の低周波治療により、筋肉の緊張は少なくなっています。
また、ストレスによりぐっと身構える様な時に筋肉の緊張が生じるので、精神的な面においてストレスをためずリラックスするという事も必要だと思っています。
噛み合わせ(不正咬合)の影響を受けにくくする為にマウスピースの様なスプリントを入れる必要があります。
下の写真は、耳の前方と首の後ろの部分に端子をつけ、低周波治療器で筋肉の緊張を少なくする処置をしているところです。
スプリント(マウスピースの様なものです)の作製
これは、上顎と下顎の歯の上に乗せるちょうどマウスピースの様な物で歯を削ることなく作製します。このスプリントの特徴は、不正咬合による筋肉の緊張の防止とスプリントを口の中に入れると噛み合せが高くなります。すると下顎は矢印の方向、すなわち下の方向へ移動し、その結果、下顎の前へ移動して口を開けにくくしている関節円板が正常な位置(下顎の上)へ戻りやすくなります。但し、関節円板が前方へ移動して日数が経ってしまうと関節円板が変形、変性してしまい、スプリントを入れても正常な位置に戻る確率は少なくなります。
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スプリントを装着すると、下顎は下方へ移動し下顎窩と下顎との間のすき間が大きくなり関節円板が正常な位置すなわち下顎の上へもどりやすくなります。スプリントを入れても、関節円板が正常な位置にもどらないときでも、スプリントを入れる事によって矢印の部分への負担が少なくなる為、噛んだ時の痛みや朝起きた時の口が開きにくいといった症状は軽減されます。
関節円板が前方へ移動し口が開けにくい状態 |
噛んだ時、下顎は↑の方向へ動き、関節円板が前方へ転位することにより関節円板の後ろにあたる軟らかい組織を噛むたびに圧迫するようになり、噛みしめると痛みが発生するようになります。
関節円板は、硬い繊維でできていて噛む力を受け止める働きがありますが、その後ろの組織は軟らかくダメージを受けやすいわけです。
顎の動きの解析
顎関節症に伴う目眩、立ちくらみ、あるいは嘔吐等の症状においてもスプリントを口の中入れる事によって、筋肉の緊張が軽減され、それらの症状が劇的に軽減されるか、あるいはまったくなくなってしまう事もあります。
これは、スプリント装着により筋肉の緊張が少なくなることも原因の一つと考えています。
スプリントの使用により下顎と関節円板の位置関係が正常にもどると、以前(関節円板前方転移の時)あった口を開いた時の一種独特な顎関節の圧迫感はなくなり、いきなり口がスムーズに開ける様になります。
但し、これは口が開きにくくなってから2~6ヶ月以内の若年者の方に効果があるようです。
スプリントを入れてすぐではなく、中には5~6ヶ月経ってから口が開ける様になった方もあります。
下顎の動きをコンピュータで解析しているところです。
術前は顎関節症で口が開かないときの下顎の動きです。
術後は顎関節症がスプリント治療で治ったときの下顎の動きです。
上の図は下顎の動きをグラフのようにディスプレイ上に再現したものです。図の中の青い線が横から見た下顎の動きを表しています。
左が術前の口が開きにくい時の状態で、右がスプリント治療を1ヶ月行い、口が開けるようになった状態を表しています。術後はるかに口を大きく開けるようになっていることがわかります。もちろん、スプリント装着前にあった、口を大きく開けた時の痛みや、圧迫感もなくなっています。このように、口が開けにくい方や、口を開けるとき大きな音がする方には、スプリント療法、低周波療法、徒手的修復を合わせて対応し、症状の軽減に努めています。
徒手的整復
関節円板が前方へ転位し口が開きにくい場合、患側の下顎を術者がゆっくりと力を下方にかけ、関節円板が正常な位置、すなわち下顎の上にもどる様にする方法です。
口が開かなくなってから時間が経っていなくて筋肉の緊張が少ない場合に効果があります。
口を開く障害となっている下顎の前方にある関節円板が正常な位置にもどるわけですから、指1~2本ぐらいしか口が開けなかった方が指4本ぐらい一気に開ける様になります。
ただ、筋肉の緊張があり、口が開けにくく(関節円板の前方転位)なって時間の経っているケースでは効果のない場合が多いようです。
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術者の手で体重をかける位の力を↓方向にかけ下顎を下方へ動かした後、やや前方へ動かし、口を開きにくくしている前方転位した関節円板を正常な位置にもどそうとする方法です。
治療用スプリントの紹介
模型上のスプリント
装着中のスプリント
主に、夜間就寝時の使用します。多くの場合、装着後数日で、偏頭痛、顎の関節の痛みの軽減などの効果が出ます。